半世紀前のボンネットバス 日本一めざした車掌とともに

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2019年秋、1台のボンネットバスが古都奈良を駆け抜けた。半世紀前に走り始めた車両は、今も走り続けている。満席の車内に、古びた外套を着た車掌の姿があった。大きなエンジン音と車体の揺れで声もほとんど通らないなか、マイクを握り、張りのある声で語り始めた。奈良交通の上條正幸さん(75)が冗談交じりのガイドで乗客の笑いを誘う。濃紺の外套に、日焼けで色落ちした車掌の赤い腕章。首からつるしたがま口カバンも、乗車券を切るパンチも、入社当時の代物だ。
 この日は、「奈良交通のボンネットバスを守る会」が主催した、ファン待望の撮影会。奈良交通に1台だけ残る1966年製のボンネットバスを借り切り、全国から集まった21人がドライブと撮影を楽しむ催しだ。13回目は昨年11月24日に開かれ、奈良市、宇陀市、東吉野村の山間部にあるバスゆかりの地などをめぐった。
 最初にたどり着いたのは、奈良市東部の山あいの集落だ。杉木立にぽつんと立つ木造の「大平尾車庫」。バスの終点にもなっている。「この車庫には集落の人の郵便受けがあって、今も使われてます」。上條さんが解説すると、参加者は「知らなかった」という表情で聴き入る。
 かつての山間部では、車庫やバス停に各家庭の郵便受けがあり、そこで朝刊を手に取り、バスに乗って通勤する光景がよく見られたそうだ。朝のラッシュ時には超満員で、乗降口の扉も閉まらないほど。車掌は大の字になって扉の両脇の手すりをつかみ、乗客が落ちないように支えた。

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